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1.障害児療育への将棋導入について
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障害児教育に「将棋」を導入する事でどのような学習療育効果が見込めるのか?という直接的な文献は、我々の求める限り見当たりません。現状では、大学・研究所などの学術・研究機関において将棋を学問的な体系から捉えていこうとする試みは萌芽的なものに過ぎず、学習療育効果や脳の発達に及ぼす将棋の効果についての系統だった研究も行われていません。
従って、将棋の学習療育効果については、信頼できる科学的なデータが存在しないわけです。その結果、将棋に対する社会通念も遊びという範疇に留まり、それを超えた発想が育ちにくい感が否めません。このことは将棋を身近な親しみやすいものと捉えやすいプラス面もあるものの、学校教育など公的な場への将棋の導入にはむしろマイナスになっています。
ただ、将棋普及の現場に携わっている方々や父兄の間で、集中力を高めるなど将棋の知育に及ぼす具体的効果の実例は、よく聞かれる話題です。論理的な思考と空間把握など直感力をともに要求される将棋というゲームのもつ特質を想起すれば、当然の話です。将棋の学習療育効果については、公式には未知数ですが、魅力あふれる未知数だと我々は考えています。
障害者の精神活動は、一般に社会で認知されているよりはるかに高水準である場合が多いことが知られています。しかし、障害の性質および程度によっては、ハンディキャップのため、それを表現する手段を持たなかったり、表現する能力を充分に育成できなかった歴史的背景があります。
従って、障害者の知力育成と同時に、他者とのコミュニケーション能力の育成をできるだけ早い時期より進めていただく必要性があります。また障害者が健常者と同等の表現を実行するためのツールやインターフェースは、技術の進歩や社会的な関心の高まりにより飛躍的に改善されていますが、これらのツールの普及や使用に対する習熟も急務です。将棋は絵画、音楽さらには身振りや物腰などと同様に、ノンバーバル(非言語的)なコミュニケーション・ツールの1つであるという一面も見逃せません。

(1)自立支援
まずは筆者の拙い普及経験から申し述べたいと思います。
筆者の将棋塾「毘沙門塾」において唯一のご法度は、一度決定した指し手を変更すること、つまり「待った」をすることです。
どんな悪手を指しても構わないが、「待った」だけは塾生に固く禁じています。これには明確な狙いがあるのです。まず筆者が考える障害者にとっての自立とは次の通りです。
| 1.自ら考え、決断し、 |
| 2.自ら行動し、 |
| 3.結果について責任を負う。 |
自立の第一歩は「身支度が自分でできること」であり、地域の療育センターや養護学校でも重点的に療育を受けるのはまずこの点であるはずです。ところが、身近な例でいえば、日常の身支度でも、「時間がかかる」という理由だけでついつい親が手を差し伸べてしまうものなのです。食事然り、着替え然り、洗面然りです。しかしこの場合、残念ながら子供を慮っての援助は「障害児の自立を阻害する」ということになりかねません。子供の自立を願うのであれば、子供自身に「やらせてみる」ことが肝要です。「空腹」という意思表示をしなければ食欲は満たせないし、食事の際に衣服や手が汚れても「着替え」たり「洗面」しなければ、「汚れた」まま就寝しなければならない、ということに「気づかせる」ことが真に自立を促す事でもあるはずです。
筆者の将棋塾においても、当初は出来るだけ塾生が「勝ち」に至ることを重要視しました。指導対局中でも指し手のヒントを満載したものです。これは「将棋に勝つ」楽しさを知ってもらうことを主眼としたからでした。しかし、1年を経過したころから、7割程度、指導者側が勝つよう改めました。つまり、「将棋は悪手を指せば負けるのだ」という自己責任に気づいて欲しかったからです。
今でも忘れられないのが、初めて塾生が負けた時の不思議そうな顔です。一瞬何が起こったのか理解できないという表情であったことを覚えています。納得いかない、とても不服そうな表情でした。しかし、一手一手の指し手が慎重になり、戦法を覚えようと努力し、集中力が高まったのもこれ以後のことであったのも事実です。
石川県の自閉症成人施設「はぎの郷」の先生方からも「施設内での日常生活に比べて、将棋を指す時間だけは格段に集中力が向上している」とのご指摘を賜りました。自閉症者にとって約2時間、只管一つの主題に取り組むというのは至難の技だそうです。この自己責任を明確にするというテーマがあるからこそ、当塾では「待った」は禁じ手としているのです。
「将棋」には・・・
| 1.自らの指し手を考え局面をイメージし、(思考の連続性、集中力) |
| 2.常に相手の応手も自己と同位に考え、(他者の認識・肯定、相対化) |
| 3.指し手を決断し、(選択する能力) |
| 4.やり直しの出来ない一手を指す。(自ら行動する能力) |
| 5.結果は偶然や確率の産物ではなく全て自己責任である(責任能力) |
という認知・思考・行動手順が含まれます。蛇足を申し述べれば、このステップに昨今流行の「TVゲーム感覚=リセット機能」が入り込む余地はありません。
しかしながら筆者の普及方法に批判が無いわけではありません。特に障害を知らない高段者からは「楽しく勝たせてあげれば・・・」という指摘もいただきました。残念ながら前述の1〜5のステップを無視して「楽しく勝たせる」ことに終始すれば、「将棋」は「娯楽・余暇」の域を出ないのです。誤解無きよう申し述べますがが、筆者は「娯楽・余暇」として「将棋」を楽しむことに何の異論もありません。むしろ大歓迎です。しかし敢えて「指し手」と「勝敗」に自己責任を要求するからこそ「将棋」は「障害者自立支援」の手段に昇華すると信じています。本例は「自閉症」という障害の一例に過ぎませんが、かように「将棋」とは障害者自立支援のための全てのステップが網羅されている我国固有の伝統文化なのです。

(2)交流活動支援
養護・盲・聾学校学習指導要領「総合的な学習の時間」には、配慮事項として「・・・交流活動など体験的な学習、問題解決的な学習を積極的に取り入れること。」と示されています。言うまでも無く、障害児にとって「交流活動」は「自立支援」とともに大きな課題であり、この「交流活動」を支援する目的においても「将棋」は最適です。以下にその理由を述べます。
●「将棋」は万人に平等である
「将棋」のルールは数百年の歴史を経て非常に洗練・単純化されており、かつ万国共通である。「将棋」は健常者と障害者を区別しません。
●「将棋」は交流障壁を解消する手段である
私見ですが、「将棋」には4つの言語的特性があると考えます。それぞれの特性は障害者同士、障害者と健常者が交流するための障壁を除去する特性を持ちます。
言語特性 |
詳 細 |
交流障壁解消への貢献 |
視覚的言語 |
視覚的に盤面の推移を表現 |
聾者同士、聾者と健常者の交流に貢献 |
記述的言語 |
指し手や棋譜を言語記述することで表現 |
点字に記述変換することで盲者同士、盲者と健常者の交流に貢献 |
音声的言語 |
指し手や棋譜を音声で表現 |
棋譜や指し手を音声に変換することで盲者同士、盲者と健常者の交流に貢献 |
デジタル言語 |
いわゆる「0」、「1」または「ON」、「OFF」に変換して表現 |
Webを最大限活用すれば、全ての障害者に対し、時間的、距離的、身体的障害を大幅に取り除き、かつ反復再現性、保存性も飛躍的に容易となる |
残念ながら、これら明確な利点は現在の交流活動、将棋普及には活かされていないといわざるを得ません。特にデジタル化の分野においては、課題が山積みです。このデジタル化については、「3.棋道導入とITの可能性」にて後述します。
●「将棋」は礼節を重んじる伝統文化である
障害児というだけで、「礼節」を「軽視する」または「軽視される」傾向があります。曰く、「障害があるのだから、礼儀・礼節まで求めるのは?」これは、障害児を授かった親も然り、周囲も然りです。つまり、本人の意志とは無関係に、過保護な環境が形成される可能性が充分にあります。障害児療育においては、まず社会的規約・規範(ルール)を学ぶことが大きな課題であり、「礼節」(モラル)を学ぶステップは次段階です。これは当然の学習指導です。「赤信号で横断してはいけない!」ということを学ぶのは自らの生命を守るためにどうしても必要な学習ステップなのです。
厳密に言えば、大変悲しいことですが、肉体的・精神的障害のために挨拶すらまま成らないという障害児が多々いることは事実ですが、これらのケースを除けば、障害児といえども「礼節」は学ぶべきであると考えます。幸いにも、「将棋」という伝統文化にはこの「ルール」と「モラル」の双方が歴然と内包されています。 昨今、マスコミを賑わす若者の言動の根底にあるであろう「ルールさえ守ればモラルなどどうでもいい」という姿勢は「棋道」においては通用しないのです。
「棋道」においては、はじめに「礼節ありき」です。このことは、障害児教育において重要です。当塾においても、各駒の動きを覚える事より、「お願いいたします」と対局を開始し、「有難う御座いました」と感謝を述べることを最優先事項として指導徹底しています。なぜなら「相手を認め、共に学ぶ」という姿勢が「障害児教育における将棋学習」の基本だと考えるからです。この基本姿勢があるからこそ、「将棋」は障害児が「礼節」を学ぶための最適なツールであると考えます。
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2.障害児療育分野での弊社の役割
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ここでは、弊社の非営利事業の目的でもある、「療育分野での弊社の役割」について概念図を元に述べてみます。
(1)養護・盲・聾学校「総合的な学習の時間」への「将棋」導入の推進
| 養護・盲・聾学校長、教職員方への「棋道」導入折衝 |
| 「棋道」指導者の紹介・斡旋 |
(2)将棋インストラクターの育成
(社)日本将棋連盟公認の普及指導員は06年05月現在、500名弱であり、とても充分な指導者数とはいえません。「総合的な学習の時間」にて「将棋」を学んだ障害児から将棋インストラクター(5〜6級程度の棋力)を輩出したいと考えます。
(3)障害者・高齢者の雇用創出
正課授業指導者としての将棋インストラクターに正当な指導報酬が支払われるよう、学校側、教育委員会、都道府県、地方自治体との予算折衝を代行いたします。
(4)「棋道」導入の為のインフラ整備
障害児が学習しやすい将棋盤、将棋駒、将棋ソフトウェアを作製したいと思います。特に、インターネット上で動作する障害者が使いやすい将棋ソフトウェアの作製・配布は必須であると考えます。これが実現できれば、遠隔授業が可能となり、身体的理由により現地に出向けない障害者へも在宅勤務・受講の門戸を拡げることができると考えます。
(5)
「棋道」導入の教育的効果の学術的研究
「棋道」導入が障害児教育・自立支援にどれほどの教育的効果をもたらすのか?をテーマに学術的に測定、評価、検証し、広く啓蒙活動を推進したいと考えます。
(6)障害者の活動の社会への還元
「棋道」導入を契機として、適確に敷衍すれば現実社会の事象全般に拡充できる、障害者の自立心の育成や自己の能力への自信や目覚め、さらには自己実現・自己表現の手段の獲得は、障害者の社会活動の場を拡大したり、社会に対する障害者ならではの新しい価値をもたらすことが期待できると考えます。 |
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3.棋道導入とITの可能性 |
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今日の「高度情報通信社会」における障害児療育への「将棋」導入は「アナログ領域」と「デジタル領域」に区別して考察されるべきだと考えます。特に、「デジタル領域」においては、世界的なIT技術の進歩により、障害児教育・雇用創出にとって、画期的な効果をもたらす可能性を秘めていると思われます。
以下に両面からの将棋導入について考察します。
(1)アナログ領域
この領域では唯一、盲人用の将棋盤駒が普及・浸透しています。「社会福祉法人日本盲人会連合」では1セット\7,350で販売されています。当塾も早速購入・使用しました。この盲人用将棋盤は1マス毎に窪みが設けてあり、全ての駒がキチンと指定した枠内に収まるように設計されています。駒においては、側面に点字が施されており、盲人でも容易に全駒(表裏を含め)を識別できる工夫がなされています。
また、障害児向けではありませんが、くもん出版の「NEWスタディ将棋(\2,457)」は全駒に移動可能な方向や升目が矢印で表示されており、初心者には格好の導入ツールであるといえます。
これら機材は、必要に応じて随時使用することが可能ですが、アナログ領域において、今後革新的な機材の発明・開発はあまり見込めないといわざるを得ないのではないでしょうか?
(2)デジタル領域
一方デジタル領域では、インターネットの世界的な広がり、パーソナルコンピューターの著しい進歩と低価格化、通信事情の進歩(ブロードバンドの浸透、通信回線の高速化等)が進み、数年前では不可能であったが、現在ではごく当り前であることも珍しくありません。まずは、通常のPC機器にて将棋を導入した場合の利点、問題点を整理してみます。
障害者にとってのPC機器の問題点
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PC機器・機能 |
身体的障害 |
聴覚的障害 |
視覚的障害 |
モニター |
○ |
○ |
× |
キーボード |
△ |
○ |
○ |
マウス |
△ |
○ |
△ |
音声機能 |
○ |
× |
○ |
このように、障害の種別により、各機器は有効に機能する場合としない場合が顕著に認められます。また、各障害は単一とは限らず、重複して障害を持つ子供たちも多々学習することを考慮すれば、未だ充分であるとはいえません。特に精神障害者に関しては、非常に残念ながらデジタル導入のメリットは見出しにくいと思われます。いずれにしろ、障害者のPC機器使用における最大のテーマはPCへの入力インターフェース(意思表示)手段であると思います。
次に将棋学習にデジタル機器を導入した際のメリットについて整理します。
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|
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○
(在宅指導・受講可能) |
× |
|
○ |
○ |
|
◎
(容易かつ高速) |
○ |
保存性のよさ |
◎
(大容量が容易に保存可能) |
○
(要記録) |
非言語メッセージの伝達 |
△
(困難) |
○
(容易) |
伝達の即時性 |
○
(若干の時間差あり)
(通信障害による遮断の可能性あり) |
◎
(瞬時) |
受信の随意性 |
◎ |
× |
以上のことから、障害児学習に最適な将棋ソフトウェアとは以下のような機能を備えたものになるかと考えます。なお、この機能は現時点でのPC技術において可能であるレベルに留めています。従って、技術的な問題だけに絞れば、全てが実現可能または実施済みの機能です。
No |
機 能 |
対象となる障害 |
実現状況 |
1 |
棋譜・指し手の音声読み上げ |
視覚的障害 |
○ |
2 |
駒落ち局面の設定 |
障害全般 |
○ |
3 |
任意の局面設定 |
障害全般 |
○ |
4 |
選択した駒の可動範囲の視覚的表示 |
障害全般 |
○ |
5 |
レーティング機能 |
障害全般 |
○ |
6 |
多面差し機能
(同時に複数局を指導するため) |
障害全般 |
△ |
7 |
駒の得失表示
(常時、駒の損得を表示する機能。 例:桂馬−1) |
障害全般 |
× |
8 |
e-mailでの指し手指示を取り込み、盤面に反映
(手紙将棋のデジタル版) |
障害全般 |
× |
9 |
棋譜・指し手の点字プリンターへの印刷 |
視覚的障害 |
× |
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